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1月の台湾総統選挙で当選した民主進歩党の頼清徳主席が総統に就任した。
頼氏は就任演説で、「民主と自由は台湾が譲歩できず堅持すべきものだ」との原則を表明し、中国の圧力に対して民主主義陣営と連携して防衛力を強化する姿勢を示した。
日本は頼政権を後押しし、台湾海峡の平和と安定を保っていくべきだ。
外交安全保障政策について、頼氏が蔡英文前総統の路線を踏襲するのは妥当だ。頼政権の中核メンバーには蔡前政権の要人が多く登用された。
蔡前政権は中国が台湾周辺で軍事活動を活発化させ、一部の台湾農産物の輸入を禁止するなど圧力をかける中、米国との連携を推進し、欧州諸国との関係も強めた。台湾の安保強化に努めた功績は大きい。
頼氏は行政院長(首相に相当)時代に「私は台湾独立のための堅実な仕事人」と述べたことがある。だが、総統としては「台湾独立」を唱えず、現状維持を図ることで台湾の自由と民主主義、繁栄を守る姿勢だ。
国際社会には「台湾海峡の平和と安定の重要性」へのコンセンサスがある。頼氏は自信を持ち、同時に細心の注意を払って対中政策を進めるべきだ。
台湾併吞(へいどん)をねらう中国の習近平政権は4月、対中融和を掲げる台湾の最大野党、国民党の馬英九元総統を中国に招き厚遇した。国民党への影響力を強め、内政に介入したいのだろう。台湾周辺で中国軍は多数の艦船を航行させたり、軍用機を飛行させたりして威嚇している。
だが、力による一方的な現状変更は許されないし、成功しない。台湾人は自由と民主を享受している。香港の自由の圧殺を目の当たりにもした。共産党統治を歓迎するはずがない。
頼氏は総統就任前、日台関係について「私たちは同生共死(=共に生き共に死ぬ)だ。台湾有事は日本有事であり、日本有事は台湾有事である」と語った。対中抑止へ日本の協力を期待した発言だ。中国の侵攻による台湾有事が日本有事と連動するのは、西側の安全保障関係者にとって常識である。
日台が対中抑止力を向上させれば互いの安全が高まる。岸田文雄政権は防衛力の抜本的強化を進め、日台、日米台の安保対話に乗り出すべきだ。
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2024年5月21日付産経新聞【主張】を転載しています